脂質異常症(高脂血症)とその治療


コレステロールと中性脂肪

コレステロールは脂質の一つで細胞膜を補強したり、ステロイドホルモンや胆汁酸の原料となる物質でもともと体の中にある成分です
このコレステロールの血中濃度が必要以上に高くなった状態を高コレステロール血症といい高カロリーな食事、特に脂肪の取りすぎが原因となって起こってきます
近年では食生活の欧米化に伴い、1960年台には平均185mg/dlだった日本成人の総コレステロールは1990年には200mg/dlを超してしまいました
これは特に女性において顕著であり特に閉経後はホルモンバランスの関係で上昇してしまう傾向があります
コレステロールのうち全身に供給されるLDLコレステロールは悪玉コレステロールと言われており低い値の方がよく、一方全身から回収されるHDLコレステロールは善玉コレステロールで高い値の方がよいとされています(正常値LDL 140mg/dl未満、HDL 40mg/dl以上)
中性脂肪(トリグリセリド)は皮下脂肪、内臓脂肪といった体の脂肪細胞にストックされエネルギー源として使われる脂肪ですが、メタボリック症候群の診断基準にも上げられているこの項目は血中濃度が高いと様々な動脈硬化性疾患の原因となります
これもコレステロールと同様高カロリーの食事やアルコール、甘いものの取り過ぎで上昇します

脂質異常症(高脂血症)の診断

高脂血症は自覚症状がほとんどなく、血液検査の結果で診断されます

高脂血症と診断される基準値
総コレステロール 220mg/dl以上
LDLコレステロール 140mg/dl以上
HDLコレステロール 40mg/dl未満
トリグリセリド 150mg/dl以上

このうちLDLコレステロールは直接測定する以外に計算式からも概算可能です
<Friedewaldの計算式>
LDL=総コレステロール-HDL-TG×0.2

日本人の高コレステロール血症人口は2000万人ともいわれています


高LDLコレステロール血症の危険性

脂質異常症は動脈硬化を進め、その結果心筋梗塞や脳梗塞の原因となります

血液中のLDLコレステロール値が高いと血管の内皮に付着しプラークを形成、傷ついた血管内皮細胞から白血球(単球)が侵入します。侵入した単球はマクロファージとなり内膜でコレステロール(変性LDL)を取り込みプラークはさらに大きくなっていきます





プラークがさらに大きくなると、ある時突然プラークを覆う被膜が破裂、破裂したところに血小板が集まりかさぶたのようになり血栓を形成し血流を妨げます。これが心臓を栄養する冠動脈におこれば心筋梗塞となり、脳の血管に起これば脳梗塞となります




厄介なことに血管が閉塞するに至るまで自覚症状はほとんどありません
だから脂質異常症は早期に治療する必要があるのです
動脈硬化の危険因子はコレステロールの他に、糖尿病、高血圧、肥満、年齢、喫煙などがあり多くの危険因子を併せもつことにより上記のような病態の危険率は相乗的に高まってきます

治療目標値

LDLコレステロール(LDL-C)以外の危険因子の数、過去に冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の既往があるかどうかによって目標値が異なります
<主要危険因子> 加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、低HDLコレステロール(HDL-C)血症

治療方針の原則 カテゴリー 脂質管理目標値(mg/dl)
LDL-C以外の
主要危険因子数
LDL-C HDL-C TG(中性脂肪)
一次予防 T(低リスク群) 0 160未満 40以上 150未満
U(中リスク群) 1〜2 140未満
V(高リスク群) 3以上 120未満
二次予防 冠動脈疾患の既往あり 100未満

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版より

脂質異常症の治療法

脂質異常症の治療は食事療法、運動療法が主体となりそれでも不十分な場合に薬物療法が用いられます
<食事療法>
まずコレステロールが取り込まれ過ぎないようにするためにコレステロールを多く含む食品(卵黄、いくら、たらこ、ウナギ、脂の多い肉類、ベーコン、ソーセージ、レバー、あん肝などの魚の内臓類など)を控えます
次に体内でコレステロールが過剰に合成されないように、適正なカロリーの食事、特に動物性の脂肪(飽和脂肪酸)を取り過ぎないように注意します。3番目にコレステロールが排泄されやすいように野菜、海草、きのこ、豆類など食物繊維を多く含む食品を十分にとりましょう。 中性脂肪が高い場合は上記以外にアルコール、糖質の摂取を控えることが重要です

<運動療法>
基本的には有酸素運動を行い、肥満がある場合は肥満特に内臓脂肪を減らすことが重要です。運動療法は肥満や脂質異常症を改善させるだけではなく、血圧にも糖尿病にも有効であり足腰や心肺機能を強くする効果もあります。またストレス解消にも良いことがおおいとされています
運動のやり方の詳細は「メタボリック症候群について」と「インスリン抵抗性と糖尿病」の項を参照して下さい

<薬物療法>
脂質異常症にはHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)、フィブラート系薬剤、陰イオン交換樹脂、プロブコール、ニコチン酸などがありますが現在臨床の場で広く使用されているのは前2者です
*スタチンは1987年頃より世界の市場に出始め、その後種類が増え現在に至ります。スタチンにはその作用の強さによりスタンダードスタチンとストロングスタチンがあり、後者の方が強い降下作用を持っています

スタンダードスタチン プラバスタチン(商品名 メバロチンなど)
シンバスタチン(商品名 リポバスなど)
フルバスタチン(商品名 ローコール)
ストロングスタチン アトルバスタチン(商品名 リピトール)
ピタバスタチン(商品名 リバロ)
ロスバスタチン(商品名 クレストール)


スタチンは肝臓でのコレステロール合成を抑えることにより優れたLDLコレステロール低下作用とHDLコレステロール上昇作用が期待できます。副作用としては横紋筋融解症や肝機能異常が知られていますので、服用開始後は定期的な採血検査が必要です

*2007年発売されたスタチンとはまったく違う作用の薬、エゼミチヴ(商品名 ゼチーア)
これは小腸でのコレステロール吸収を強力に抑えることによりコレステロールを下げる作用の薬であり、スタチンとの併用も可能です
当院でも使用していますが、スタチンと併用することにより非常に優れたLDL低下作用が認められています
また単独使用例についてもスタンダードスタチンに匹敵する効果が見られています

*フィブラート系薬剤(ベザフィブラート(商品名 ベザトールSR)、フェノフィブラート(商品名 リピディル))は核内受容体のPPAR-αに作用して、脂質合成に関係する蛋白合成を制御する作用があり、主に血液中の中性脂肪(トリグリセリド)を下げる作用に優れています