メタボリック症候群について


メタボリック症候群とは

現在新聞、TVなどのメディアですっかり有名になったメタボリック症候群(シンドローム)ですが、この症候群は内臓肥満に高血糖(糖尿病)・高血圧・高脂血症の2つ以上を合併した状態をいいます
まずは日本肥満学会(メタボリックシンドローム診断基準検討委員会)が2005年に発表したその診断基準

必須項目 下記3項目のうち2項目以上に該当
ウエスト周囲径

男性 85cm以上
女性 90cm以上

(内臓脂肪蓄積状態)
   1.中性脂肪(TG) 150mg/dl以上
 
かつ/または
 HDLコレステロール40mg/dl未満
2.収縮期血圧   130mmHg以上
 
かつ/または 
 拡張期血圧    85mmHg以上
3.空腹時血糖   110mg/dl以上

*このウエスト周囲径に関しては日本独自のものであり、男性より女性のウエスト基準値が大きいのは女性の方が皮下脂肪が厚いためと言われています。しかしこの女性90cm以上という基準をもう少し小さい値に設定した方がいいのではと言われているのも実状ですが2007年の学会では今の基準のままという方針が示されました。

*メタボリック症候群発症には内臓脂肪の蓄積が深く関与していると考えられています。内臓脂肪蓄積はインスリン抵抗性を引き起こし、さらに脂肪細胞より分泌される化学物質(サイトカイン)のうち善玉のサイトカインであるアディポネクチン産生の低下にも関与していることが分かっています。

インスリン抵抗性の話題についてはこちらから

メタボリック症候群の怖さ


平成16年に厚生労働省の調査によると、心筋梗塞などの心疾患が日本人の死因第2位(15.5%)、3位は脳梗塞などの脳血管疾患(12.5%)でこれらは動脈硬化が基礎となって発症する病気です。
メタボリック症候群を構成する肥満、糖尿病、高血圧、高トリグリセリド(中性脂肪)血症や高コレステロール血症といった因子は動脈硬化進展の危険因子となりますが、これらの因子を1つもっている方は全くもたない方に比べ心疾患の発症リスクが5倍に、2つもっている場合は10倍近くになっていることが示されています。さらに危険因子を3〜4つ持っている方は持たない方の実に30倍になることも分かっています。
メタボリック症候群は自覚症状が乏しいため、そのまま放置すると重大な病気を引き起こす可能性が高いのです。したがって糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満といった個々の疾患を総合的にかつ早期に治療しておくことが重要です。

個々の疾患について

<糖尿病> 日本糖尿病学会が定める糖尿病の診断基準では空腹時血糖が126mg/dl以上は糖尿病型で、110〜125mg/dlまでは境界型とされています。つまりメタボリック症候群の診断基準では境界型も含まれることになり、糖尿病に以降する前の段階から食事療法や場合によっては経口糖尿病薬を使って治療した方がよい例が数多くみられます。

<高血圧>世界保健機関(WHO)と国際高血圧学会(ISH)が示した基準によると高血圧は収縮期140、拡張期90mmHg以上とされていますが、メタボリック症候群の場合、年齢を問わず、収縮期血圧を130未満、拡張期血圧を85未満に保つことが必要と思われます。

<高脂血症>メタボリック症候群の診断基準にあげられているのは中性脂肪(150mg/dl以上)とHDL(善玉)コレステロール(40mg/dl未満)ですが、それ以外の脂質関係の項目、総コレステロール特にLDL(悪玉)コレステロールの高値(140mg/dl以上)はそれだけで独立した危険因子となりますので、他に危険因子がある場合は薬剤を用いて目標値以下に下げておく必要があります。

メタボリック症候群の対策

第一に・・・運動!
第二に・・・食事療法!
第三に・・・禁煙・アルコール制限!
最後に・・・薬物療法  

<運動療法> 早足の散歩、ジョギング、水泳などの持続する中等度の運動(有酸素運動)が有効です。内臓脂肪は皮下脂肪と異なり、運動を持続することで比較的容易に落とすことができます。
理想的には一週間で2000Kcalの運動によるカロリー消費が望ましいとされており、これを一日で換算すると約300Kcalとなり10000〜12000歩の散歩で消費可能です。
運動療法の効果は累積的で、その効果は48時間持続すると考えられていますので、3日以上空けると無駄になってしまいます。原則として可能な限り毎日、それも血糖値の上昇する食後に行うのがよいと思います。


<食事療法> 理想体重(身長(m)×身長(m)×22)に日常活動量に応じ25〜35Kcalを乗じたものがその方の理想的な一日摂取熱量(カロリー)となります。一般的な仕事で平均身長の場合、男性で一日約1600〜1800Kcal、女性で約1400〜1600Kcalとなります。
このうち約半分を炭水化物で補い、脂肪量は全体の20〜30%以下に制限するのが望ましいと思われます。また外食の場合、最近はコンビニやレストランではカロリーが表示されている場合が多く、それらをいつも見るように心がけておくと自然とカロリーが大体理解できてくるでしょう。外食でのメニューは概してカロリーオーバーになっている場合が多いので、主食や油の多い副食は少し残すことも大切です。

<禁煙・アルコール制限> 喫煙はそれだけで動脈硬化の危険因子となるだけでなく、他の様々な疾患の原因となりますので止めることをお勧めします。よく軽いタバコに変えるとか、本数を減らすとか聞きますが、それでは全く意味がありません。本数を減らすことで1本1本の重要性が増してしまい逆に止めにくくなってしまいますので止める時はスパッと0本にしなければなりません。
アルコールは多くない量(1日1合以内)を毎日は飲まないように心がけましょう。

<薬物療法> 薬物は主に高血圧、糖尿病、高脂血症に対して投与されます。食事療法、運動療法を行ってもまだ不十分な場合、専門医の指示に従って薬剤を服用してください。
メタボリック症候群によく使われる薬としては、高血圧に対してはカルシウム拮抗薬やアンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)やα・β遮断薬、少量の利尿薬など。
糖尿病に対してはビグアナイド系薬剤、ピオグリタゾン、αグルコシダーゼ阻害薬やスルフォニル尿素薬などがあります。高脂血症に対してはスタチン系薬剤、フィブラート系薬剤、最近発売された小腸コレステロール輸送阻害薬などを用いて治療を行います。

いずれにせよメタボリック症候群(高血圧、糖尿病、高脂血症)は自覚症状の乏しい疾患ですので、自己判断せず必ず病院で検査を受けた上で薬物治療の必要性を検討してもらうことが大切です。